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リヤカーの花嫁さん

NEWS

公開日:2025/09/14

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自動車に関する思い出で、現代ならあり得ない、考えられない話を集めました。

昭和22年頃に結婚した蘇原持田町の小川Sさん(女性)から聞いた話です。

「当時、自動車に乗れるのは一生に一回あるかないかの時代でした。花嫁さんとして嫁ぐ時を逃したら、おそらく一生涯、自動車に乗る機会はないだろうから、子どもの頃から結婚式の日には、必ずタクシーに乗って嫁ぎたいという夢を持っていました。

戦争が終わり平和な時代が訪れ、縁談がある頃になると、結婚の期待と不安の中で、タクシーに乗せてもらえることを楽しみにしていました。

しかし、私が嫁ぐことになったのは、同じ持田町の中の人で、生家から嫁ぎ先までは700~800㍍程度しか離れておらず、歩いて行ける範囲で自動車は必要なく、花嫁タクシーを予約してもらえませんでした。結婚式の当日は、リヤカーに乗せてもらい嫁ぎました。これで一生涯、乗用車に乗ることはできないと思い、本当に残念でした」

昭和29年、持田町の小川Kさんが亡くなられました。当時は、持田町の墓地で葬儀を行うのが一般的でしたが、この人は蘇原町役場で要職に就き、蘇原町墓地整備に尽力されたこともあり、葬儀はその墓地で行われました。持田町から蘇原町墓地までは、4㌖程度離れており、徒歩で葬列を作って行くことは不可能で、遺族や親族の乗るボンネットバスが用意されました。

当時、持田町にバスが来ることはなかったので、その噂を聞き知った子どもたちは、早くから集まっていました。昼頃にボンネットバスが持田町の細い農道を通って入ってきました。集まった子どもたちの一人として私はそのバスを迎え、目の前を通るバスの排気ガスを吸いました。

その臭いは、今までに嗅いだことのないかぐわしい香りで、“良い香り、街の香り、都会の香りだなあ~”と思ったことを覚えています。

昭和30年代前半、蘇原小学校(現在の蘇原第一小)から持田町までの通学路は、曲がりくねった田んぼ道や山道で、洞の一番奥の持田町に入ってくるのは、持田町の住民の自動車以外はほとんどありませんでした。

当時、持田町で乗られていたのはダイハツのミゼットという、オートバイのような棒ハンドルの軽三輪トラックが数台だけで、子どもたちは見れば誰の車か知っていました。

3㌖の通学路を帰る小学生は疲れており、歩いて帰るのがイヤでイヤで仕方がありませんでしたから、後ろを振り返りながら、ミゼットが来ることを心待ちにしていました。

子どもたちは、誰が運転する車か分かります。車が近づいてくると、みんなで声を合わせて“乗せていって~”と叫ぶのでした。

運転者は、歩いている子たちは持田の子で、その親や祖父母が誰であるか知っています。子どもの横で車を止め“乗せてあげるよ”の声で、喜んで荷台に乗り込みました。

子どもたちは、“今日は助かった、楽に帰ることができた”と思いながら、振り落とされないように荷台にしがみつき、持田町に着くと“ありがとう”と言って車から降り、自宅に向かいました。

昭和30年代前半になると、“耕耘機(こううんき)”が普及し始めました。ロータリーという、金属製の回転する刃で農地を耕すガソリンエンジンやディーゼルエンジンの農業機械で、テイラーとも呼びました。

人力で田畑を耕すことと比較すると、作業効率は抜群に良く、くわを振るい土を耕す重労働から解放され、楽に短時間で田おこしや水田のシロカキができました。

ロータリーの刃を取り外して、そこにリヤカーを連結させると、運搬車にすることもできたので、耕運機(こううんき)と表記することもありました。

連結したリヤカーにナンバープレートを取り付ければ、小型特殊免許で公道を走ることもできました。

正福寺川の扇状地に位置する持田町は、坂道が多く、稲・麦・サツマイモなどの重い農作物を、リヤカーを使って、人力で水田や畑から自宅まで運び上げるのは一苦労だったので、重宝していました。

スピードは、歩くより少しだけ早い程度でしたが、三輪車と同じような構造なので小回りが利き、直角に曲がる細い農道を入ることも、バック(後進)することもできました。馬力はあり、重い稲や麦やサツマイモなどを荷台一杯に積んでも、十分運べました。

トラクターや軽トラが普及するまで、農家にはなくてはならない耕作・運搬手段でした。

ニュースイメージ1

小川輝良さんの納屋に保管されているヤンマーの耕耘機

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