害虫やネズミと同居
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公開日:2022/09/18
今は、日本全国くまなく電気・ガス・水道が普及し、農村でも都会風の快適な生活を送ることができるようになり、生活スタイルは田舎も都会も、ほとんど差はありません。
しかし、昭和40年代までは、田舎には伝統的な生活環境が残っており、自然豊かな農村には、家の中にまで昆虫や動物がいました。
戦前から昭和20年代前半までは、女児の髪にシラミがよく寄生しました。男児は丸刈りの坊主頭ですからまれでしたが、女児は髪を伸ばしていましたので、“シラミがわいている”子どももおり、「シラミがうつるので、友人と肩を組んではいけない」(90代女性)と、親にしばしば注意を受けたそうです。
シラミは、髪を洗い清潔にしていれば防ぐことはできますが、井戸水をバケツで風呂場に運び入れ、まきで湯を沸かすのですから、入浴は週に1~3回で、湯量も少なく、“湯船たっぷりのお湯“などあり得ません。水道さえないのですから、もちろんシャワーもありません。シャンプーは販売されていませんし、せっけんは貴重品でしたので、洗髪は時々しかできませんでした。
戦後間もない頃は、小中学校でも、DDTの粉を噴霧器で頭髪に直接ふりかけ、シラミ退治をしていたそうです(小川豊一さん談)。
昭和30年代には、シラミの寄生は少なくなったようです。
現代では“ヒトノミ”はほとんど見かけませんが、昭和30年代まではノミに悩まされました。大きさは2~3㍉の褐色の昆虫で、オス・メスともに吸血します。夜寝ている時に喰われると強いカユミで眠れません。電灯をつけて、寝間着の縫い目(パジャマはまだなかった)に隠れているノミを探しますが、跳躍力が凄く、20㌢以上も跳びます。逃げられることもあり、見つけるまで徹底的に探し出して、退治しました。
布団の周りに粉末のDDTをまいて防虫をすることもありました。“あめ玉入れの缶”に似た、直径10㌢・厚さ2㌢程度の缶に、白い粉末のDDTを入れ、フタをポコポコと押すと、横に開けられた3つの小さな穴から薬剤が出てきます。敷き布団まわりにくまなく、DDTの白粉が分かるぐらい、丁寧にまきました。効果は抜群で、ノミに悩まされることなく眠れました。
DDTは、今では使用が禁止されていますが、当時は毒性の強い薬品であることを全く知らずに、使っていたのでした。
蚊にも悩まされました。建具は木製雨戸・ガラス戸・障子です。エアコンはもちろん、扇風機さえ貴重な時代で、夏は雨戸も障子も開け放ち、外気を取り込んで、うちわで涼を取りました。網戸もないので、蚊・カブトムシ・コガネムシなどの虫はいくらでも部屋に入ってきます。蚊は電灯がともって明るい時は、部屋の隅に隠れており、電灯を消し暗くなると、「ブーン」という羽音とともに出てきますので、就寝の時には、蚊帳(かや)をつりました。
麻の蚊帳は、濃い緑色で、独特の匂いがありました。織目が粗くても麻糸には起毛がありますので、蚊は侵入しません。ナイロンのカヤは、糸に起毛がないので織目が細かく、風が通りにくいので、麻の蚊帳の方が快適でした。
蚊帳の中に蚊が入り込まないように、うちわなどで蚊を追い払っておいて、素早く蚊帳の裾をめくり上げ、中に入りました。
ハエも多くいました。ハエが飛んでいるのは普通のことで、天井に止まったハエの糞は、黒色の点々となっていました。スプレー式の殺虫缶はまだありませんでしたので、“アース”と呼び習わしていた殺虫液を、手動の噴霧器に入れて使っていました。台所では、粘着剤を塗り広げた“ハエ取り紙”や、天井からテープ状になった“ハエ取りリボン紙”をつり下げていました。
天井に止まったハエは、ガラス製のじょうご・ガラス管・壺(つぼ)からなる、長さ1㍍ほどの“ハエ取りガラス棒”で捕まえました。天井のハエにじょうごをかぶせると、逃げ場を失ったハエは、管を伝ってせっけん水などの入ったガラス壺に落ち、駆除されました。
夜になり、電灯を消して暗くなると、天井裏でネズミが走り回りました。ネズミを駆除するために、猫を飼う、金属のネズミ捕り器やワナを設置する。“猫いらず”という劇薬の殺鼠(さっそ)剤を使うこともありました。
ゴキブリは生息していたに違いありません。しかし、誰に聞いても「覚えていない。知らない。見たことがない」という返事ばかりです。刺したり、噛んだりするわけではありませんから、直接の被害はほとんどありません。夜行性ですし、光量も少ない白熱灯の下では目立たない存在で、あまり意識していなかったのではないかと思います。
「ゴキブリホイホイ」という粘着ゴキブリ捕獲器が発売され、盛んにテレビで宣伝が行われるようになってから、ゴキブリの受難が始まったようです。
ネズミ捕り器(各務原市歴史民俗資料館 蔵)
金網製の籠の内に餌を仕掛け、ネズミがその餌を取ると、バネ仕掛けで入り口が一瞬で閉じるように作られていた
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